金属材料研究所研究部門の研究

材料照射工学研究部門の研究

長谷川雅幸 他

原子力関連の鉄鋼(圧力容器鋼用低合金鋼やそのモデル合金など)やガラス(放射性廃棄物ガラス、石英ガラスなど)から半導体(シリコン、ダイヤモンドなど)などの照射欠陥、格子欠陥、超微小析出物((サブ)ナノ粒子)の形成とその構造などを解明する目的で、陽電子消滅(2次元角相関、同時計数ドップラー広がり、陽電子寿命など)、電子スピン共鳴、光吸収、電子顕微鏡などの実験を行っています。

面心立方銅(バルク)および鉄中に析出した体心立方銅(ナノ粒子)のフェルミ面と陽電子消滅2次元角相関(2D-ACAR)の異方性スペクトル。それぞれの最近接ブリルアン・ゾーンに接触するフェルミ面の突起(ネック)[(a),(b)図中の矢印]に由来する2D-ACAR異方性の正のピーク(橙)[(c),(d)]が観測される。この方法によって、埋め込みナノ粒子の電子構造が明らかにされる。このような銅ナノ粒子が原子炉圧力容器鋼照射脆化の主 原因である。


原子力材料工学研究部門の研究

金属中のヘリウムの挙動

松井秀樹 他

様々な手法でヘリウム注入を行った金属・合金の照射による機械的性質変化について研究を行った。
V-15Cr-5Tiのヘリウム予注入材への中性子照射による機械的性質変化。
引張試験中に発生するセレーションと同時にヘリウムの放出
転位芯でのウムパイプ拡散を確認。ヘリウムによる照射脆化の解明の一助となった。

バナジウム2元合金におけるヘリウム脆化の組成依存性を明らかにした。
原子寸法因子による系統的な特性が明かになった。図はヘリウムによる固溶硬化量と均一伸びの原子寸法因子依存性。

耐照射性合金の組成設計指針が得られた。

原子寸法因子によるスエリング発現機構

小さな溶質原子サイズ因子の二元合金で大きなスエリングを発現することが明らかになった。
耐スエリング性に優れていると考えられていたBcc合金で異常なスエリング発現現象が観察された。

 

アンダーサイズ溶質原子添加による自己格子間原子のクラウディオン→ダンベル変換による転位への優先吸収頻度の増加によってアンダーサイズ溶質原子添加Bcc合金のスエリング増加がMD計算機実験によって示された。
Bcc合金のスエリング発生機構が上記の点欠陥運動により説明されることが明らかになった。
[111]クラウディオンと[1-10]ダンベル格子間原子のポテンシャルエネルギー差

TEM内引張「その場」観察による軽水炉圧力容器鋼の脆化研究

軽水炉圧力容器の経年劣化で問題となる微小Cuクラスターを検知するため、TEM内引張試験による転位の動的観察を通して研究を行った。

Fe-Cu時効材において引張試験による降伏応力と、TEM内引張「その場」観察試験から推定された降伏応力はよい一致を示した。

TEM内引張「その場」観察試験によるTEMでは検知できないCuクラスターを検出が可能となり、軽水炉圧力容器鋼の脆化研究の進展に大きく寄与した。


放射線金属化学研究部門の研究

プルトニウム化合物の単結晶育成と新規超伝導メカニズムを解明

芳賀芳範(A)、酒井宏典(A)、青木大B、松田達磨(A)、神戸振作(A)、徳永陽(A)、
中島邦久(C)、荒井康夫(C)、本間佳哉(B)、塩川佳伸(B,A)、山本悦嗣(A)、
中村彰夫(A)、R.E.Walstedt(A)、安岡弘志(A)、大貫惇睦(D,A)

(A)日本原子力研究所先端基礎研究センター
(B)東北大学金属材料研究所
(C)日本原子力研究所エネルギーシステム研究部
(D)大阪大学大学院理学研究科

プルトニウム化合物PuRhGa5の単結晶育成に初めて成功し、磁化、核四重極共鳴(NQR)スペクトルを測定することで、磁気を媒介とした新しいタイプの超伝導が実現していることを明らかにした。

これまでに知られている超伝導は、金属中のマイナスの電荷を持つ2個の伝導電子が、プラスの電荷を持つ結晶格子を介して結合することによって生じる。超伝導を通常の状態(常伝導)に戻すのに必要なエネルギーを超伝導ギャップと呼ぶが、これは超伝導特性を表す重要な量である。 一方、従来より、プルトニウム化合物でも8.6Kという比較的高い転移温度で超伝導が生じることは知られていたが、プルトニウムのように磁気を持つ物質では、このようなメカニズムによる超伝導は実現せ ず、別のメカニズムによるものと予想されていた。

今回、プルトニウム化合物超伝導体PuRhGa5の超伝導発生メカニズムの解明を中心とした物性研究のために、この物質の単結晶を育成したが、日本でプル トニウム化合物の単結晶育成、及びこれを用いた物性研究を行なったのはこれが初めてである。ま ず、8.6 K以下の超伝導状態で、ガリウム核の四重極共鳴スペクトルの観測に成功した。これを利用して超伝導ギャップの状態を調べたところ、ギャップが一様ではな く、部分的に閉じていることを見いだした。さらに、超伝導が壊れる臨界磁場が結晶の向きによって大きく異なることを明らかにした。これらの結果は、プルト ニウム化合物 PuRhGa5 の超伝導が磁気媒介型であることを示している。

今回の成果は2つの点で注目される。(1)電子物性研究の対象をプルトニウム化合物にまで拡げたこと、(2)これまでに知られている超伝導と異なり、PuRhGa5の超伝導が、その発生メカニズムに磁気が関与している新しいタイプのものであることを見いだしたことである。
プルトニウム化合物という超ウラン化合物の超伝導発生メカニズムを明らかにしたことは、超伝導という現象が金属の性質として普遍的な現象の一つであるこ と、超伝導発生メカニズムが非常に多様であることを実証するものであり、その意義は大きい。プルトニウム化合物の高い超伝導転移温度は、発見当初から注目 されていた。今回、その発生メカニズムが磁気媒介型であることを明らかにしたことにより、実用化に最も近いと言われている銅酸化物高温超伝導体のメカニズ ム解明にも大きく寄与するものと期待されている。また、核燃料物質として知られている超ウラン元素の電子物性の研究をさらに進めることにより、未知の物理現象の発見およびその解明を通じて固体物理学という現代社会を支える基礎科学の発展にもつながる。

なお、この研究成果は、日本物理学会誌(英文誌)6月号に速報として掲載された。またこの論文は、同誌の注目論文に選ばれた。科学新聞の一面(6月10 日)、日刊工業新聞(6月17日)、NHK水戸デジタル放送、NHK水戸FMでも報道された。

補足説明

PuRhGa5とは

PuRhGa5は、図1に示すように正方晶 (格子定数 a = 4.301 A、c = 6.857 A)であり、PuGa3とRhGa2の層が [001] 方向に積層した結晶構造である。Gaは、Puに囲まれたGa(1)及びPuとRhに囲まれたGa(2)の2種類の位置を占める。これは、超伝導体として知られるCeCoIn5と同じ結晶構造である。
PuRhGa5の単結晶を、ガリウムフラックス法により育成した。原料であるプルトニウムを図2(a)に示すが、きわめて活性な金属であり、空気中の酸素と反応する。酸化を防ぐため、全ての作業はアルゴン雰囲気中で行われた。プルトニウム、ロジウム及びガリウムを1:1:20の比でアルミナるつぼに入れ、電気炉で1100℃まで加熱する。これを12時間かけて冷却することにより、液体ガリウムの中にPuRhGa5単結晶を成長させた。図2(b)に示すよう な大きさ2.5 x 1.5 x 0.9 mm3ぐらいの単結晶が多数育成された。平たい面が(001)面である。我が国でプルトニウム化合物の単結晶が育成されたのはこれが初めてである。
PuRhGa5の超伝導は、2003年にドイツの超ウラン元素研究所のグループにより発見された。多結晶試料について測定が行われ、超伝導転移温度及び上部臨界磁場が報告された。しかし、超伝導の対形成機構の解明には、超伝導パラメータの結晶方位依存性を決定する必要があり、単結晶育成が待たれていた。こ の単結晶試料を、今回、構成元素であるガリウムフラックス法で育成した。得られた単結晶試料は、Puのアルファ崩壊に伴う発熱を防ぐために銅棒に接着して、図2(c)に示すようにカプトンチューブに挿入し、これを測定試料とした。

PuRhGa5の超伝導の基本的な性質

PuRhGa5は磁性体であり、図3に示すように磁化率χは温度の降下に伴ってキュリーワイス則で増大し、約9Kで超伝導転移に伴って急激に減少し、負値に変化する。超伝導転移温度 Tc = 8.6 Kであった。磁場を[001]と[100]に印加したとき、ほとんど同じであり、異方性がほとんどないこと、また磁気秩序のないキュリー常磁性体であることを確認した。
ところが、様々な強さの外部磁場下での超伝導の性質を調べたところ、超伝導状態が外部磁場で破れる上部臨界磁場Hc2は、磁場方向によって大きく異なることを観測した。図4はHc2の温度依存性であり、0KでのHc2の値はH // [100] で27 T、[001]で15 Tと推定され、異方性が大きく、かつ値自身も極めて大きいことが分かった。

磁化率に異方性がないことから、この異方性は伝導電子の電子状態の異方性の反映であると結論した。エネルギーバンド理論から、類似の物質のPuCoGa5 のフェルミ面が、凸凹のあるシリンダー状をしていることから、PuRhGa5のHc2の異方性はこのようなシリンダーフェルミ面に由来すると思われる。

超伝導ギャップの異方性

超伝導は、伝導電子が引力を感じて結合することによって生じる。このことは、伝導電子にとって、超伝導が最も安定な状態であることを意味する。超伝導を通常の状態(常伝導)に戻すためにはエネルギーが必要であり、これを超伝導ギャップと呼ぶ。従来から知られている超伝導では、引力の源は結晶格子であり、超伝導ギャップは大きさが一定で、結晶の方位にはよらない。一方、今回の発見の特徴は、この超伝導ギャップが一定ではなく、部分的にゼロになっている、ということを見いだした点である。このことは、電子間の引力の起源が結晶格子ではなく、磁気によるものであることを意味している。

超伝導ギャップを調べるための実験手段として、核磁気共鳴は非常に有効な手段である。
構成元素のGaの核スピン(I = 3/2)は、核四極子相互作用により±3/2と±1/2の2つの準位に分裂する。この2つの準位間の共鳴は、1本の共鳴線(Nuclear Quadrupole Resonance、略してNQR)となる。図5は、PuRhGa5のGa (2) サイトの69Gaのスピンエコー法によるNQR共鳴である。原子核がNQR共鳴により電磁波を吸収してから、そのエネルギーを放出するまでの時間T1を測定すると、その物質の電子状態が明らかになる。
図6は、T1の逆数の温度依存性であり、約30 K以下で温度Tに比例して、高温とは異なったコリンハ則の振舞いが見いだされた。更に、超伝導転移温度 Tc = 8.5 K 以下で、T1-1は急激に減少した。

その特徴は2つある。
(1) 超伝導転移温度 Tc 付近に従来の超伝導に特徴的なピークの出現がないこと。
これは、超伝導のギャップが一様に形成されていないことを意味する。
(2) T1-1が、Tc 以下で指数関数ではなく T3 則に従って減少する。
これは、ギャップが線状につぶれていることを意味する。ただし、3 K以下 T3 則からからずれだしているが、Puのα崩壊に伴う点欠陥によって、恐らく一部の超伝導対が破れていることを意味する。
本研究から、PuRhGa5のフェルミ面はシリンダー状と予想され、超伝導は図7(b)示すように線状に超伝導ギャップがつぶれている。したがって、図7(a)に示すような従来の一様なギャップとは異なっている。

PuRhGa5の超伝導メカニズム

通常の超伝導は、マイナスの電荷を持つ2個の伝導電子が、プラスの電荷を持つ結晶格子によって結合し、その結果、伝導電子のエネルギーにギャップが生じることによって実現する。
一方、 PuRhGa5はPuの5f電子が関与した常磁性体であり、PuRhGa5の超伝導の発生機構には磁気が関与していることを示している。磁気関与型超伝導は、異方的なギャップ形成など通常とは異なる振舞を示す。
これまでのウラン化合物の超伝導転移温度は0.5?2 Kという低温であるが、PuRhGa5は8.6 Kと約1桁大きいことも注目される。フェルミ面が3次元の球状よりも準2次元系のシリンダー状の形状の方が転移温度が高くなることが理論的に指摘されているが、このことと今回の一連の実験結果は合致する。PuRhGa5の上部臨界磁場が15?27 Tと大きいことも、伝導電子が5f 電子を含んでいることの現れであろう。
プルトニウム化合物という超ウラン化合物で、新しいタイプの超伝導メカニズムの解明に成功したことは、超伝導という現象が金属の性質として普遍的な現象の一つであること、超伝導発生メカニズムが非常に多様であることを意味しており、その意義は大きい。ネプツニウム、アメリシウム等の超ウラン化合物でも今後 超伝導が見いだされる可能性は大きい。


原子力材料物性学部門の研究

原子炉内その場光学測定手法の開発と光ファイバの照射誘起光吸収挙動 (国際ラウンドロビンテストの一例)

四竃樹男 他

□世界に先駆けて原子炉内で光ファイバを用いた光計測手法の開発を行った。

□これまでに、1023n/m2までの高速中性子フルエンスに耐えるファイバの開発に成功している。(水素添加、フッ素添加、など)成果はITER設計に反映されている。

□これら成果に基づきIEA国際ラウンドロビンテストが実施された。右は成果の一例

照射下でのセラミック絶縁体の電気伝導挙動

絶縁体の電気伝導挙動は放射線との相互作用により動的に大きく変化する。
照射誘起電気伝導(Radiation induced electrical conductivity; RIC)
照射誘起起電力(Radiation induced electromotive force; RIEMF)
電荷蓄積(Radiation induced electrical charge-ups; RICU)
熱励起電気伝導(Thermally stimulated electrical conductivity; TSC)

これらの現象を原子炉内で動的に評価する手法を世界に先駆けて確立した。成果は日米協力研究,JUPITER計画の主要課題として取り上げられHFIRを用いた大規模な実験が実施された。
成果はITERプラズマ機器設計に反映されている。また、RIEMFなどの新たな現象を利用した素子開発につながっている。

実験設備 研究課題申請大洗における宿泊施設
平成30年度 共同利⽤予定表